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東京高等裁判所 平成6年(ラ)1421号 決定

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別紙当事者目録のとおり

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  抗告人は、原決定を取り消す、相手方の担保提供命令申立てを却下する、との裁判を求めた。その理由は別紙(末尾の「記」と題する部分を含む)のとおりである。

二  当裁判所も、抗告人は、相手方らのために、抗告人の提起した株主代表訴訟の提起の共同の担保として、原決定の定めた額の担保を提供させるのが相当であると判断するものである。その理由は、原決定の理由説示のとおりであるから、これを引用する(抗告人は、当審においても、両会社の合併比率が不公正であることにより、会社が損害を被ることとなる所以を種々主張する。その論拠は明らかでないが、結局は物産不動産株式会社の株主に対して割当てられた株式に対する配当金のうち不当に評価された株式部分に対応する部分が会社の損害になるとの主張に帰すると思われる。しかし、その理由のないことは原決定の説くところから明らかである。)。

よって、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 上谷清 裁判官 田村洋三 裁判官 曽我大三郎)

当事者目録

《住所略》

抗告人 野島弘光

右代理人弁護士 藤井與吉

同 藤井眞人

同 紺野稔

同 秋田徹

《住所略》

相手方 江尻宏一郎

《住所略》

同 八尋俊邦

《住所略》

同 山下英明

《住所略》

同 水民護郎

《住所略》

同 河西乾二

《住所略》

同 田渕守

《住所略》

同 宗重章

《住所略》

同 熊谷直彦

《住所略》

同 立木常男

《住所略》

同 越田保

《住所略》

同 久保亮一

《住所略》

同 中村稔

《住所略》

同 堀野和夫

《住所略》

同 米倉國輔

《住所略》

同 大木莊三

《住所略》

同 園山裕三

《住所略》

同 大原寛

《住所略》

同 清水英邦

《住所略》

同 古屋眞

《住所略》

同 大塚卓朗

《住所略》

同 池田正雄

《住所略》

同 矢内重晴

《住所略》

同 伊藤淳

《住所略》

同 杉田敬一

《住所略》

同 伊藤金雄

《住所略》

同 近藤久男

《住所略》

同 堀栄一

《住所略》

同 吉岡稔

《住所略》

同 石栗一民

《住所略》

同 川島麒平

《住所略》

同 守戸一清

《住所略》

同 内海昭

《住所略》

同 石川良二

《住所略》

同 本間徹治

《住所略》

同 〓暎一郎

《住所略》

同 有田昭二郎

《住所略》

同 江口和夫

《住所略》

同 丹野武宣

《住所略》

同 神谷惠之助

《住所略》

同 矢島一男

《住所略》

同 古谷公男

《住所略》

同 金子廣幸

《住所略》

同 川添雄吉郎

《住所略》

同 西川晃一郎

《住所略》

同 糸魚川忠巳

《住所略》

同 藤村菊苗

《住所略》

同 八木竜朗

以上

別紙

(一) 担保提供命令決定書の「理由」の中、「第三 当裁判所の判断 」一の項に付て。

一、〈1〉 原決定の説示は当然としても、「悪意」に基づく提訴として列挙されている例は、何れも本案提起の抗告人には該当しない。

〈2〉 何故なら、抗告人は平成6・9・29付準備書面で記述の如く、本案請求の正当性に不動の確信を持つに至っており、またその立証の準備も殆どできていると思料しているからである。

二、〈1〉 抗告人は、本案に就いて、昭和63・5東京地方裁判所に「合併無効」として提訴して以来、6年に亘る研究・検討の結果、本案に就いての被告等(以下相手方等と称す)のなした不法行為の真相を把握し得た積りである。

〈2〉 又、疏乙第2号証の1の証拠説明書に記載した計17の各書証はその主要部分が合併無効事件に於て被告の三井物産(以下三井と略称する。)側の提出した書証・準備書面を逆用したものであり、信憑性が高く立証も比較的容易となっている。

〈3〉 又、疏乙第2号証の2の「三井取締役会議事録の謄写申請」の手筈を整えたのも、各相手方等の責任の有無・分担・役割を証明するためで、本案主張の正当性に確信を持ち、且つ立証の準備もできているが故の詰めの積りである。

(二) 「第三 当裁判所の判断 」二の項に付て。

一、原決定が本件本案に於ける、相手方等の不法行為により、「会社に損害は発生しない」と判示されたのは、その点に関する抗告人の主張の不備・不手際のためと思料し、以下の如く、従来の主張を補足・整理する。

二、〈1〉 本案相手方等の不法行為は、三井と子会社物産不動産との合併契約に係わる合併比率決定の基礎とする株価算定に際し、三井は株式市場の株価の平均値625円を採用したので、法は合併に関し同一評価基準を求めているから、非上場とはいえ、資本金50億円、社歴数十年の物産不動産の株価は大多数の場合の如く、株式市場に上場されている同業他社株式の株価に比準して決定する類似業種比準方式により600円前後に算定するのが正常・妥当といえたのである。

〈2〉 然るに、相手方等は物産不動産の株価算定に当り、実質純資産価額方式を採用したのは未だしも、物産不動産自体の資産の再取得評価額ではなく、利害の対立する合併相手の三井の資産の再取得評価額6,776億余万円に準拠して算定するという、驚くべき不公正な方法で2,666円と妥当値の略4倍の超高値に決定したのである。

〈3〉 右の結果、合併比率は正常なら物産不動産1対三井1であるのに、三井4に決定されたが、これは三井の株式に対し逆粉飾決算同然の不法をなし、物産不動産の計4名1,500万株所有の株主に対し、三井の株式を3倍の4,500万株も余計に割当交付したことになり、三井に1株575円(625円-50円)として、258億7,500万円の損害を与えたと主張したものである。

三、〈1〉 而して、原決定は右に関し、相手方等の主張を採用し、「……株主間に不公平を生じることはあるとしても、合併前の各会社の資産及び負債はすべて合併後の会社に引き継がれ、他への資産の流失や新たな債務負担はないのであるから、合併後の会社自体に損害が生じることはないこと明らかである。」と判示されている。

〈2〉 しかし乍ら、本案不法行為は後記四の項と勘案すれば、尚更物産不動産株主を利するため、前記の如く著しく不公正な方法で物産不動産に極めて有利な合併比率を決定し、同社株主に対し、1株625円の価値のある三井の株式4,500万株を不法に割当交付したものであるから、正常に売却若しくは発行した場合に比し三井の現金・預金勘定に入金されるべき金額を1株当り625円として、計281億2500万円減少させ、三井に損害を与えたというべきである。

〈3〉 別言すれば、相手方等が職務執行に忠実なら、当然受領・入金する義務のあった株式代金281億2500万円を物産不動産株主を利するため、故意に受領を怠ったと同然の背任行為をなしたのであり、又不法な利益を得た4名の物産不動産の法人株主は各自独立した別社会であるから、合併後の三井がその不当利得を吸収若しくは引き継げる訳ではなく、三井(会社)に相手方等が受領・入金すべき株式代金281億2500万円の入金がなかったことは、原決定の判示の如く、「合併前の各会社の資産及び負債はすべて合併後の会社に引き継がれ、他への資産の流出や新たな債務負担はない」としても、会社(三井)にそれだけの損害が発生したことになるのは明らかというべきである。

四、〈1〉 而して、相手方等は前記二の各項の如く、その独占的立場からの権限を恣意的に行使して、物産不動産株主に対し、三井の株式4,500万株を不法に割当・交付したが、左の事情を勘案すれば、相手方等には当初から物産不動産株主を利する計画があったこと明らかと推量されるのである。

〈2〉 即ち、三井が100%所有する物産不動産株式の中、1,500万株を売却したのは本件合併直前の第67期(昭61・3・期)であるが、同時期同業不動産会社の株価は最低と最高との比較では、三菱地所は5.29倍、三井不動産は3.55倍と暴騰していたのである。

〈3〉 本案合併契約は次の第68回定時株主総会(昭和62・6・26開催)で決議されているから、三井は約1年後に吸収合併する物産不動産の株式を親密な4名の法人株主のみに殊更に売却したことになるのである。

〈4〉 三井の資産の再取得評価額計6,776億余万円算出のため日本不動産研究所に依る15冊の鑑定評価書を作成し、約2億円の費用と1年余の時間をかけているが、抗告人の長い株主生活でも合併比率算定のための専門家による資産の鑑定評価を見聞するのは極めて稀であるが、况してや本件は親子会社の合併であり、通常ならあり得ないことである。

〈5〉 物産不動産株式の売却先及び株式数は、何れも金融・資本関係等を通じ、密接な関連のある三井生命400万株、日本生命400万株、第一生命300万株の生命保険3社の他は、金融・資本・取引関係等に於てより密接な三井・富士の両銀行が除かれ、何故三井信託銀行400万株が選ばれたかであるが、それは三井信託銀行なら、「特定金銭信託」を利用することによって、相手方等縁故者個人の買付・所有でも同行名義にすることができたからであり、以上の事情を勘案すれば、本案の発生の根元とさえ思料されるのである。

(三) 抗告人の主張

一、右(二)の各項において、抗告人は相手方等の本案不法行為により三井に損害が発生した事情に就いて詳述し、従来の主張の不備を補足・整理した積りであるが、元々損害発生自体についてはみじんの疑念も持たず、「正確には裁判所のご判断を仰ぐ以外にはない」(平成6・9・29付準備書面12P下5行)としたのは、損害額算定の方法若しくは株券引き渡し請求の方が妥当なのか否か等に関してであり、本案賠償請求額30億円の基礎となる損害(相手方等の賠償責任)としては何れでも該当する、と安易に考えていたので不備が目立ち次の二の項の如く補正する。

二、〈1〉 仮に右(二)の項で補正した相手方等が不法に供与した株式代金281億2500万円の受領義務不履行の主張に瑕疵があるとしても、相手方等には会社に対し、不法に発行した4,500万株の株券の返還引き渡し義務が残ることになり、更には、仮に右両主張で十分でないとすれば、平成6・9・29付準備書面10-11P五〈2〉の項で記述の如く、4500万株の、そして三井は昭和63年には1株に対し0.03株の無償増資をしたので、爾来4635万株の大量過剰株式の発行は株価の減価並びに配当金の支払いを通じ三井の損害発生にならぬ筈はないのである。即ち、

〈2〉1.三井株式の1株当り純資産・含み・収益等を薄め、且つ需給を悪化させるなど三井の株価のマイナス要因になること必定であるが、会社は高株価を利用した時価発行などを最有力の資金調達の手段として体質強化に努めているから、株価の減価は会社の損害となること明らかな実情にある。

2.而して、三井の合併時の株価625円当時の発行株式122,300万株を基準として、最も簡略な計算方式で4500万株の過剰株式の発行は22.5円の減価が算出され(625円×

〈省略〉

=602.5円、625円-602.5円=22.5円)、三井は平成2年1月1億株の時価発行をしたので、その時22.5億円の損害が発生したことになるのである。

3.又、時価発行株価1,184円過剰発行株式4635万株を基準に右同様の方式で計算すれば(1184円×

〈省略〉

=1140円、1184円-1140円=44円。若しくは、1184円×

〈省略〉

=1228円-1184円=44円)、何れの算式によるも44円の減価が算出され、三井に1億株で44億円の損害が発生したことになり、本来なら三井の時価発行株価は1228円となった筈である。

〈3〉1.更に、三井は現在まで7年間に450万株、4635万株に対し、配当金として20億7927万円を支払い、今後も、現在の配当金は1株7円であるから、4635万株に対し、特段の事情なき限り、毎年3億2445万円の配当金を支払い続けることになるが、これが三井の損害であり、且つ損害の発生源であり続けることは何人にも明白というべきである。

2.而して、常時巨額の借入金のある三井にとって、右配当金の支払い義務が幾許の経済的損失を与えるか考察すると、三井は本案に係わる第68期に於て3兆6926億余万円の巨額の負債のあった借入金依存体質の会社で金利からは重大な影響を受けており、又一般にも、実質的価値の算定・評価に当っては金利で逆算することは合理的とされているので、年間配当金3億2445万円を仮に年四分(借入金の平均金利が望ましいが調査できなかった。)で逆算すると、「3億2445万円÷0.04=81億1125万円」となり、現在まで7年間のみで既に567億7875万円の「活用し得る資金」が喪失されたことを意味するのである。

3.而して、右状態が幾らの損害になるのか。又未来永劫の支払義務の損害を幾らに評価・算定するのか。正確には専門家の鑑定評価が必要としても、本案賠償請求額30億円の根拠とする損害としては、前記〈2〉の項の株価の減価による22億円若しくは44億円の損害と合算すれば、全く問題のないこと何人にも明らかな所と思料する。

三、〈1〉 以上、抗告人の損害発生に付ての補正した全主張を勘案すれば、少なくとも、一理あることは何人にも自明の事と思料され、且つ、抗告人が本案不法行為解明のため、その動機まで追求し、既に立証準備も殆ど整っている本案請求は訴状四、被告等の責任〈2〉の項(20・21P)の数値を訂正すれば、審理の対象になり得ること明らかであるから、本案は裁判による決着こそ順当な筈である。

〈2〉 然るに、原決定は「会社自体に損害は発生しない」とした上で「原告独自の見解に基づき損害の発生を主張するものであって、主張自体失当というほかはなく、かつ、この点は原告の主張そのものの評価に属する事由であるから、原告の悪意を認めるべき場合にあたる。」と判示し、本件巨額担保の提供を命じたことは、事実上の裁判拒否に該当する。

〈3〉 しかし乍ら、抗告人の不備な主張に対しなされた原決定の事実認定には誤りがあり、少なくとも正当ではないこと前記諸事由に照らし明白であり、而も前記(一)の項並びに平成6・9・29付準備書面に於て主張の如く、省みて、抗告人は所謂「悪意」などみじんも意識できないのは固より、損害発生を含めた本案に係わる主張の正当性を確信しているのであり、原決定には損害発生の事実認定に誤りがあるのみならず、「悪意」に関する法令解釈をも逸脱しているという外はなく、原決定は取消されるべきが相当と思料する。

以上

一 別紙中、(二)四〈5〉の項の末行の次に行を改めて次のとおり加える。

「五、而して、相手方等は本案違法な合併契約に基づく実質1対4の増資を正常な場合の1対1の増資と装い、かつ、不法を隠匿するため、物産不動産は合併契約成立日(昭和62・4・30)の直前1ケ月間に倍額増資を2度も実施しながら、この重大事実を合併契約書には記載せず、また、物産不動産の株価を三井の固定資産再取得評価額6776億余万円に基づき算定し、仮にも物産不動産の固定資産689億円を約10倍に評価替えすると同様のことをなしながら、法の要請する合併貸借対照表の作成並びに計算書の添付など不可欠な措置を一切とらずに目的を果たし、事情を知り得ない三井の株主を錯誤させた。」

二 別紙中、(三)二〈3〉1の項に「450万株」とあるのを「4500万株」と訂正する。

以上

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